夏目漱石『こころ』~私と読書のきっかけを作ってくれた1冊~

名刺を渡す写真 教育

*まえがき

私は、読書が大好きである。年に100冊程度の本を読んでいる。しかし、いきなりこんな「読書大好きマン」になったわけではない。

読書を大好きになったキッカケには、1冊の本とのであいがある。

今日は、その本の感想文を、公開したいと思う。

 

 

 

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読書の醍醐味。

 

3つ。

これは、私が、「読書」から受け取った、醍醐味の数である。たった、3つなのかと思うかもしれないが、それらは、人生に大きな大きな影響を与えてくれたものだった。

そんな醍醐味を与えてくれた本の題名は、夏目漱石の「こころ」である。

本書は、前編として、大学生の「私」の視点から「先生」について語られている小説である。人間不信であった「先生」は、「私」とか関わっていく中で、「私」に心を許し、「人間を信じられるかもしれない」、と思い始めるのである。しかし、前編の最後に「先生」は、「私」に、遺書めいた長文の独白の手紙を送るのである。その手紙の中身が後編として、書かれている。

この「こころ」を初めて読んだのは、中学生のときだった。たまたま、学級にあった本の中に、100円ショップの本。それが、夏目漱石の「こころ」だった。そんなチープな想定であった本に、どんな魅力があったのだろうか。それは、「こころ」に書かれている、「先生」の情動、心の動きが、まさにその当時の自分自身に重なっていたからである。

初めて、この本を読んだ時、

「この『先生』こそ、まさに自分自身だ。」

と思わざるをえないほど、感情移入した。それは、「先生」の、「人間の言葉の裏には何かあるのではないか」という、人間への疑いに自分を重ねていたからである。当時の自分も同じように人間を疑ってかかっていた。それは、人間の本心はよめないということから端を発していたのである。つまり、人間の本心はよめないのであるから、もしかすると、この人が自分に優しく接してくれる裏側には、とんでもないものが潜んでいるのではないか。当時、そんな疑念がどうしても拭えなかったのである。

また、「先生」はそんな人間不信と同時に「お嬢さん」に恋をしていた。そして、「K」という恋敵が現れたことで、嫉妬の念にも駆られるのである。この点も当時の自分と状況が重なっていた。

当時の自分は、一緒の空間にいるだけで、どきどきする。そんな、初心な恋をしていた。そして、彼女の向けられる笑顔が自分自身でない光景を見るたびに、嫉妬の苦さも味わっていたのである。

それは、「先生」のこの身を焦がすような恋心と、それをうまく表現できない煩わしさ。さらに、彼女のために「ああしよう」「こうしよう」といくら考えても、行動をする勇気を持ち合わせていない様。それらがまさに、当時の自分と重なって見えたのである。

そのように、読書は、自身を本の登場人物と重ね合わせ、没入することができるのである。そんな、読書の没入の醍醐味をもらったのが本書であった。また、この醍醐味を味わったことが、読書の世界への扉を開くきっかけをとなり、読書が自身の人生の生きがいとなって現在に至っているのである。

この本からもらった読書の醍醐味は、幸運なことにあと2つある。

まずは、高校生の時である。きっかけは、高校の現代文の授業で「こころ」が取り扱われていたことであった。当時の私は、読書の醍醐味を味あわせてくれた「こころ」との再会に、心を踊らせていた。もう一度あの衝撃的な出会いが味わえるのではないか、と期待していたのである。

しかし、実際に再会したときには、酷く落胆した。

「どうして、こんなに『先生』は魅力のない人に感じるのだろう?」

「『先生』は、どうしてこんな人を信じられないのだろう?」

それが、読後の感想であった。つまり、全く「先生」に魅力を感じないのである。それどころか、彼の過度な人間不信に、むしろ疑いさえもっていた。しかし、本の内容は変わっていない。なぜこのような変化が起こったのだろうか。自分は、次のような結論に行き着いた。それはつまり、変わったのは自分自身である、ということである。読書は、自分の変化を映し出す“鏡”としての醍醐味をもっているのだと、本書は気づかせてくれたのである。

さらに、社会人になってからの読書会では、さらに読書を深く味わうことができた。

それは、同じ本でも、人によって感じることや、体験したことは、同じところや違うところがあるということである。それは、人との同じところや違いを映し出してくれる、“ものさし”としての醍醐味である。

このようにたった1冊の「こころ」という本から、自分は、3つの読書の醍醐味をもらった。それは、没入としての読書、鏡としての読書、定規としての読書であった。この素敵な読書という行為を大切に抱きかかえながら、この先の人生を歩み続けたい。

 

 

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2020/03/07

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